みちすがら

寄り道、近道、回り道

麻酔はじわじわと効いていく

 

「ストレス耐性は強いほうですか?」
就職活動をしていると、たまにこんなことを訊かれる。
ぼくは自分ではストレスへの耐性がつよいと思っているので、この質問にはいつも「はい」と返事をしたうえで、それを証拠付けるストーリーを語る。

その時に語られるのは、大学院のゼミでの話だ。
自分がいつも書いてゼミの議論の場に持っていくのは、本当にどうしようもない研究の計画。自分でもそれをわかっているし、周りの人はきっともっとわかっていると思う。だから、ゼミではいつも厳しいことを言われる。周りのひとは、自分の研究をよりよくしようと思っているというよりは、何か粗を探して貶めようとしているんじゃないだろうかと思うほどに厳しい言葉が飛んでくる。
「あんなに言われて、大丈夫だった?」と心配してくれる人もいるのだが、当のぼくはそれほど気にしていない。
だから、自分は結構ストレスに耐性があるんだろう、と思ってきた。

でも、それはもしかしたら勘違いかもしれない、と思うようになった。
それはまるで麻酔を打たれた時のように、ただ自分が傷を負っていることに気づいていないだけなのかもしれない、と最近は思うようになった。

他者から自分に向けられる言葉はすべて、自分によく似た、けれども自分ではない人形のような何かに向けられていて、自分には届いていない。
だから、自分は傷つかない。
そんな風に今まで自分は思ってきたけど、この人形は実は人形なんかではなくて、自分自身だったんだと思う。
麻酔によって自分の身体が自分の一部じゃないような感覚が広がっていく中で、それが自分の身体だということをきっと自分は忘れてしまっていたんだ。

麻酔はじわじわと効いていき、気が付けば身体はもうボロボロだ。
痛みに気づかなければ、身体は回復しようとも思えない。

いつかこの痛みを大切なものだと思えるようになることを願いながら、痛みを取り戻す決意をしよう。